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2015年の北朝鮮外交

2015年1月4日 9:05

 北朝鮮の金正恩第1書記は2014年、日本やアメリカ、韓国との関係改善を模索し続けた。その背景にあるのが中国との関係の冷え込みだ。

 晩年の金正日総書記は1年余りの間に3回も訪中するなど中国との関係強化に心血を注いだ。しかし「血の同盟」から「普通の関係」への転換を模索する習近平政権の発足や、中朝のパイプ役だった張成沢氏の粛清などで亀裂の生じた両国関係は改善の兆しが見えない。

 習主席が中国の最高指導者として初めて、北朝鮮より先に韓国を訪れたのも北朝鮮にとっては面白くない出来事だ。多大な支援を受けていながら、中国への不満を口にする人も増えている。中国に石炭を輸出する会社で働いているという男性は「我々は質の良い石炭を輸出しているが、安く買いたたかれている。中国以外の国に輸出できないか検討している」と話していた。

 こうした中、北朝鮮が接近を図っているのがロシアだ。去年11月には金第1書記の最側近である崔竜海書記がモスクワを訪問。プーチン大統領と会談し、金第1書記の親書を手渡した。中国依存から脱して外交の多角化を図る狙いがある。

 一方のロシアは北朝鮮の地政学的な位置に価値を見いだしている。ロシア極東と北朝鮮の羅津を結ぶ鉄道を修復。先月にはシベリアから羅津まで鉄道で輸送された石炭が初めて海路で韓国まで運ばれた。この物流ルートが活性化すればロシアは輸送コストを削減でき、北東アジアへの影響力を強めることができる。ロシアは今年5月に予定されている対ドイツ戦勝70周年行事に金第1書記を招待した。金第1書記が最高指導者就任後、初めての外遊先に中国ではなくロシアを選ぶとの観測も出ている。

 日本に対しては拉致問題を含む全面調査を約束した北朝鮮だが、日本が期待する年内の初回報告はなかった。去年前半には勢いの見られた日朝協議だが、北朝鮮側の動きが鈍っている印象は否めない。北朝鮮が将来的な経済支援を見据え、日本と関係改善を図りたいと考えているのは間違いない。しかし、拉致問題の解決が最優先との立場を取る日本側の要求にどこまで応えるのか。今年7月には調査期間のメドとされる1年を迎えるが、北朝鮮は日本から得られるものが少ないと判断すれば調査結果の報告を先延ばしする可能性もある。

 北朝鮮にとって生き残りのため交渉の本丸と位置づける相手がアメリカだが、米朝の正式な協議は3年近く途絶えている。対話の再開にあたり、アメリカが「北朝鮮の非核化に向けた対応」を求めているのに対し、北朝鮮は「無条件での再開」を要求。両者の溝は埋まっていない。

 また、国連総会で北朝鮮の人権に関する決議案が採択されたことに、北朝鮮は「アメリカの敵視政策の表れだ」と激しく反発している。さらに、金第1書記の暗殺を描いた映画を製作したソニーの子会社がサイバー攻撃を受けた問題で、アメリカは北朝鮮の関与を断定。北朝鮮は関与を否定した上で「サイバー戦を含む全ての戦争でアメリカと対決する準備を整えている」と威嚇して見せた。米朝は新たな火種を抱えた形で、関係改善は当面難しいとみられる。

 韓国との関係もこう着した状態が続いている。去年春には米韓合同軍事演習の期間中にもかかわらず、南北で離れて暮らす離散家族の再会に応じたほか、秋には金第1書記の側近3人が電撃的に訪韓して関係改善の意欲を示すなど2度にわたって対話攻勢を仕掛けた。しかし、その後、韓国の市民団体が金正恩体制を批判するビラを飛ばしたことなどに反発し、対話は途切れた。ただ、韓国では経済的な実利を念頭に南北関係の改善を求める声が上がり始めている。北朝鮮にとっては追い風と言え、南北分断70年、労働党創立70年の節目を迎える今年、新たな対話を提案することも考えられる。

 日・米・韓との関係を改善したいという基本姿勢は変わっておらず、相手の反応や日米韓の連携をにらみながら恫喝(どうかつ)と対話を使い分けるという手法が続きそうだ。