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朴大統領、統制を強化 その背景とワケは?

2014年11月27日 16:45

 韓国の朴槿恵大統領の名誉を傷つけたとして起訴された産経新聞の前支局長に対する初めての裁判が開かれ、前支局長は起訴内容を全面的に否認した。「報道の自由」をめぐって注目されている。

 産経新聞の記事は朴大統領の名誉を傷つけたのか、それとも「報道の自由」は尊重されるべきと判断されるのか。裁判は「韓国の民主主義」を測る機会ともなりそうだ。

 産経新聞の加藤達也前ソウル支局長は、朴大統領が旅客船沈没事故の当日に男性と会っていたとの噂があると8月に報道。これが名誉毀損罪に問われた。検察は、起訴状の朗読で「加藤氏は、朴大統領を中傷しようと心に決め、記事を書いた。内容はすべて虚偽だった」などと述べた。これに対し、加藤氏の弁護士は記事には「公益性」があったと反論し起訴内容を否認。全面的に争う姿勢を示した。加藤氏は「朴大統領を誹謗する意図は全くありません。裁判が法と証拠に基づいて厳正に進められることを期待し、誠実に臨みたいと思います」と述べた。

 大統領への名誉毀損で外国の記者が起訴されるのは異例で、韓国では朴槿恵大統領の就任後、言論の自由、表現の自由が狭まっているとの懸念が出ていて、最近は「サイバー亡命」と呼ばれる現象が起きている。

 「サイバー亡命」というのはスマートフォンなどの無料通信アプリで、韓国の「カカオトーク」から外国のアプリに乗り換えること。きっかけの一つが今年9月、朴大統領が「国民を代表する大統領への対する冒とく的な発言も度を越しています」と発言したことだった。

 このわずか2日後、ネット上の名誉毀損(きそん)を捜査する専門チームが発足。捜査当局がユーザーに無断でカカオトークのメッセージを閲覧していたことも判明した。こうした動きを警戒して「サイバー亡命」したユーザーは150万人以上に上るとも言われている。

 朴大統領はなぜ統制を強めているのか。「大統領への冒とくが度を越している」との発言があったように、朴大統領には批判を許さない強権的な体質があるとも指摘されている。

 韓国では27年前に軍事独裁政権を相手に市民が粘り強い戦いを続け、大統領直接選挙制とともに国がメディアを抑圧する根拠となっていた「言論基本法の廃止」を勝ち取った。市民の力によって民主主義が定着した韓国だが、時計の針は逆戻りしているような印象を受ける。その象徴とも言える今回の裁判で、司法がどのような判断を下すのか、韓国内外の目が注がれている。