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第1次大戦から100年 英・追悼の赤い花

2014年11月21日 17:52
第1次大戦から100年 英・追悼の赤い花

 イギリス・ロンドンの観光名所が“ある赤い花”に囲まれた。その花は、第1次世界大戦に関係しているという。いったいどういうことなのだろうか。石川真史記者が取材した。

 1000年以上にわたり、イギリス王室の歴史を刻んできたロンドン塔。10月下旬、その堀が赤い花に一面覆われていた。許可を得て堀に降りてみると、その正体は、造花の“ポピー”だった。陶器でできていて、はじくとカチカチと音がする。手作りで、一つ一つすべて形が違うということだ。

 このポピー、イギリスでは戦没者を追悼する象徴になっていて、第1次世界大戦が始まって100年を記念して植えられた。一本一本が戦没者一人一人に見立てられ、その数は、大戦で戦死したイギリス兵らの数と同じ88万8246本に上る。ポピーを植えるのはボランティアの人たち。中には親類を戦争で亡くした人もいた。

 「私は自分の家族だけでなく、生まれるはずだった子供たちや愛する人を亡くした女性など、戦争に翻弄(ほんろう)された何百万もの家族のことを考えています」

 第1次大戦の終戦の日にあたる11月11日には、13歳の少年によって最後の一本が植えられ、集まった数万人の市民らが黙とうを捧げた。

 一方でこのポピー。思いもよらないところに影響を与えていた。在ロンドンの北朝鮮大使館。絵画展が開かれるということで、めったに入ることができない館内に足を踏み入れると、北朝鮮の風景などにまざって、ロンドン塔のポピーが描かれていた。描いたのは金正恩第1書記一家の肖像画を担当している画家・ホン氏。北朝鮮では「金第1書記から直接指導を受け多くのことを学んだ」と言う。ホン氏はロンドン塔のポピーの絵についてこう語っていた。

 「平和を望む気持ちは、私たち朝鮮人も世界の人々と同じだという思いで描きました」

 ホン氏は「人類は戦争を望まないものだ」と強調していた。

 イギリス国内では今の時期、戦没者をしのぶ様々な行事が行われる。ダイアナ元皇太子妃の葬儀も行われたウエストミンスター寺院の庭には、10万を超えるポピーがついた小さな十字架が見られた。第1次大戦以降、戦死した兵士らを追悼するため80年以上前から毎年この時期に開かれている。庭の一角に、まだ一部の部隊が残っているアフガニスタンで死亡した兵士らの十字架が並んでいる場所があった。そのほとんどには顔写真が添えられている。そこには今の若い世代も戦争の犠牲になっている現実があった。訪れた市民はこう話してくれた。

 「第1次大戦から100年という重みが多くの人の心に響きました。最近の戦死者に思いを寄せることにもつながります」

 戦争を美化するわけではなく、国のために命を捧げた人に敬意を払い、追悼する。イギリスではこの時期、世代に関係なく戦争を自分のものとして感じ、考えている。