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親ロシア派VS政権側 混乱続くウクライナ

2014年6月13日 16:44
親ロシア派VS政権側 混乱続くウクライナ

 今月、新しい大統領が就任したウクライナ。しかし、東部では依然としてロシアへの編入を求めるグループと政権側で衝突が続いている。その背景には、ロシアとの密接な関係があった。

 今月7日、ウクライナの新しい大統領にポロシェンコ氏が就任した。2月にヤヌコビッチ前大統領が政権を追われてから3か月あまり。国のリーダーがようやく決まった。その大統領を選ぶ選挙が行われた5月25日、東部の中心都市・ドネツクに住むドミトリー・ガヴリロフさんという23歳の男性を訪ねた。ドミトリーさんはこの国の状況についてこう語る。

 「私は国の状況が変わってほしい。安定して欲しい。もっと良い生活を送りたい。物が豊富で良い国にするべきです」

 国を変えるための一票を投じようとドミトリーさんは、近くの投票所に向かった。しかし、投票所の扉が閉まっていたため投票ができなかった。東部では武装した親ロシア派が州政府や警察などの建物を占拠し、ウクライナからの独立を宣言。大統領選挙の際には選挙管理委員会に押し入るなどして投票を妨害した。ドネツク州では、投票率は15.1%にとどまった。ドミトリーさんは悲痛な思いを訴える。

 「自分の声を何とか表して政治の方法を選ぶことですね。残念ながらこの可能性は私から奪われています。何とかしたいですが、どうしていいかわからない」

 親ロシア派は、投票を望む市民からその権利を奪ったのだ。なぜこれほどまでに強硬姿勢を続けるのだろうか。

 東部の都市・ハリコフに住むポルフィリエフさん一家は、家族全員がウクライナ国籍だ。しかし、両親は2人とも親がロシア国籍で、家での会話も情報収集もロシア語が中心だ。ポルフィリエフさんはこう語る。

 「ロシアの物があふれていて、それを拒否するのは経済的より心理的な理由で難しい」

 国の公用語はウクライナ語だ。ロシア語と文字は同じだが、表現や発音は大きく違うという。公立の学校に通うアンドレイくんのクラスでも、授業はウクライナ語で行われる。一方で、この学校ではロシア語だけで授業を行うクラスも設置されている。東部では第一言語としてロシア語を使う市民も多く、前の政権はこの地域でロシア語を公用語として使える法律を作った。しかし、暫定政権は発足直後、この法律を廃止する動きを見せた。これが親ロシア派の猛反発を招いたのだ。公立小学校の校長はこう話す。

 「長年の結びつきは切れないので、ロシア語での教育の必要は昔もあった。これからもあるはずです」

 一方、経済面でも、ロシアとは切っても切れない関係にある。ドネツクは、旧ソ連時代から工業地帯として栄えた。炭鉱で使う掘削機のエンジンを作るこの工場では、国外に販売される機械のほとんどがロシア向けだ。取引先をEU(=ヨーロッパ連合)の国々にも広げようとしているが、簡単ではないという。機械製造会社社長のマノドレイ・マツェゴラさんは現状を語る。

 「EUに輸出するなら、適合が必要になります。欧州への品質基準書をもらわなければならない」

 ただでさえ、ウクライナは経済的に厳しい状態が続いている。親ロシア派が占拠を続ける建物の前では、旧ソ連時代の経験からロシアへの強い信頼感を示す高齢者も目立つ。街ではこんな声を聞くことができた。

 「ロシアに入れば、年金が上がると思う。クリミアではすでに上がっているから」

 「ロシアに近づけば経済的に良くなります。ソ連時代の経済環境が復活するから」

 一方で、ドネツク州では、住民の半数以上が“ウクライナ系”とされている。親ロシア派の存在ばかりがクローズアップされるが、ウクライナの統一やEUとの関係強化を望む市民も多くいる。大統領選の翌日、選挙に参加できなかった市民に意見を聞くと、こんな反応が返ってきた。

 「話し合うしかない。両者の立場は極端すぎるから」

 東部では大統領選後も政権側と親ロシア派の衝突が続き、ポロシェンコ新大統領は停戦を模索している。歴史と文化が入り組んだ複雑な対立を解き、国をまとめられるか。その手腕が問われる。