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ボストンテロ1年、米脅かす“ネット洗脳”

2014年5月23日 16:31
ボストンテロ1年、米脅かす“ネット洗脳”

 アメリカ社会に大きな衝撃を与えたボストンマラソン爆破テロから1年。今も残るテロの影響とは?柳沢高志記者が取材した。

 先月21日、100年以上の伝統を誇るボストンマラソンが開催された。その中に1人の女性の姿があった。リーアン・ヤンニさん、32歳。ある特別な思いを抱いて、この大会に臨んでいた。

 1年前の4月15日、ゴール付近に仕掛けられた2つの爆弾が爆発し、3人が死亡、260人以上がケガをした爆破テロ。ヤンニさんは友人を応援していて、爆発に巻き込まれた。

 彼女の左足には、今も生々しい傷痕が残っている。

 ヤンニさん「ここに硬貨の大きさの金属片が入ってしまい、このあたりから骨が飛び出た。ここは筋肉を取り除いた痕で、神経も切れてしまいました」

 1年たった今でも痛みに苦しんでいるというヤンニさん。「テロには屈しない」と、目標に掲げたのがボストンマラソンを完走することだ。そして必死のリハビリを1年間、続けた。

 多くの人の人生を変えたテロ事件。事件を起こしたとされるのはチェチェン系移民の兄弟だ。兄・タメルラン容疑者は、警察との銃撃戦の末、死亡。弟・ジョハル被告は殺人罪などで現在、公判中だ。なぜ、事件は起きたのだろうか?

 兄弟の関係者への取材を改めてすすめる中で、兄・タメルラン容疑者と高校時代、友人だったという男性から話を聞くことができた。タメルラン容疑者の当時の宗教観について尋ねてみると―

 「タメルラン容疑者は敬虔(けいけん)なイスラム教徒でしたが、ほかの人の宗教や信条にも敬意を払っていました」

 この証言とはまったく正反対のタメルラン容疑者の言動が事件の3か月前、イスラム教の礼拝の場であるモスクで目撃されていた。

 タメルラン容疑者を知る男性「説教師が『イスラムの社会、アメリカの社会の両方に良い習慣、文化があるので、それを調和させようと』と話をしていたところ、タメルラン容疑者が突然、立ち上がって『間違ったことを言っている』と言い始めたのです」

 突然、説教師に反論し、モスクから追放されたというタメルラン容疑者。この騒動の1か月後、タメルラン容疑者の足跡をある意外な場所で見つけることができた。

 それは、兄弟の自宅から車で1時間ほどの花火店だ。

 花火店・店長「この花火がタメルラン容疑者が購入したものです。『最も音が大きく、強力な花火が欲しい』と言ってきました」

 事件の2か月前、店で一番強力な花火を購入していたのだ。

 この時の兄弟をつき動かしていたとみられるものが事件後、弟・ジョハル被告のパソコンから発見された。

 それは“インスパイア誌”―イスラム過激派「アラビア半島のアルカイダ」が発行するインターネット上の雑誌だ。

 文章はアラビア語ではなく、英語で書かれている。アメリカなど欧米に住むイスラム教信者に、住んでいる国でテロを起こすよう繰り返し促している。

 そして、今回の事件で使われた「圧力釜爆弾」の作り方もここで説明されていた。その材料のひとつは“花火の火薬”だった。

 インターネットで洗脳し、個別にテロを起こさせる手法。専門家は、新たなテロの形態だと指摘する。

 専門家「これは、ここ10年、アルカイダが始めた世界戦略のひとつなのです」「インターネットを使って、欧米諸国に住む人々に、過激な思想を埋め込み、事前に察知されにくい小規模なテロを起こさせるのです」

 一方、マラソンに挑戦したヤンニさんはスタートから約5時間後、夫と手をつなぎ、ついにゴールを果たした。

 ヤンニさん「これで去年の事件に区切りをつけ、私の新しい人生を始めることができるのです。私は、これからも前に進み続けます」

 ボストンマラソン爆破テロのように、インターネットなどでアルカイダに洗脳された個人によるテロ事件は、アメリカ国内だけで、この5年で70件も起きているという。事件から1年、テロとの戦いはいまも様々な形で続いている。