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当たると兵役2年!タイ“運命のくじ引き”

2014年4月11日 15:29
当たると兵役2年!タイ“運命のくじ引き”

 タイでは毎年この時期、若い男性に義務づけられた「くじ引き」が行われる。当たりを引けば「2年間の兵役」―青春の行方が決まる運命の瞬間に、今村健太郎記者が密着した。

 タイの首都・バンコクの寺院に21歳から30歳までの若い男性が集められた。みな一様に、浮かない表情をしている。

 男性たち「とにかく緊張してますよ」「いい結果になるといいな。当たったら仕方ないけど…」

 タイでは21歳以上の男性に兵役が義務づけられている。これから彼らが臨むのは、兵役に就くかどうか決めるくじ引き。くじ引きも憲法で定められたれっきとした選抜方法だ。タイ陸軍の幹部は「軍の予算にも限りがあります。全員は受け入れられないので、くじで選びます」と説明する。

 会場には、ストレートのロングヘアをなびかせて歩く男性の姿もあった。女性として生きる戸籍上の男性、いわゆるニューハーフも兵役の例外ではない。しかし、この男性は、肉体的問題という理由で不合格になった。このように、あいまいな理由で事前に不合格になるケースも多く、毎年、仮病などの不正も取りざたされている。

 公平かどうか若干疑わしい事前審査だが、大半の男性は合格し、運命のくじ引きに臨むことになる。もしここで逃げたら懲役10年。さすがに誰も逃げない。くじには2種類あり、黒を引けば兵役免除、赤を引けば2年間の兵役となる。

 22歳の会社員・ビアさんは、つきあい始めて4か月の彼女とずっと寄り添っていた。

 ビアさんの彼女「もちろん黒(兵役免除)を引いてほしいわ、黒い服を着てるでしょ!きっと黒を引いてくれるわ」

 「もし赤を引いたら?」という質問にも、彼女は「大丈夫よ、たぶん彼も連絡をくれるはずだし…」と少し緊張した面持ちで答えてくれた。

 くじを引くのは105人。一方、兵役が課される“赤いくじ”は22本ある。赤いくじを引いた人は陸軍への配属が決まっており、1人の兵士として前線に立つ可能性もある。

 そして、運命のくじ引きがはじまった。ツボの中に手を入れ、引いたクジを担当者に渡す。

 「黒!(兵役免除)」「黒!」…結果がアナウンスされるたびに会場は独特の歓声につつまれる。そして「陸軍!」という声が…赤いクジを引いてしまった男性はぼう然。さすがにショックを隠しきれない様子だ。

 主催者の軍も演出にこだわる。赤のくじが全部引き終わったとみせかけて、わざとツボに入れていなかった赤のくじ2本を投入する。会場のボルテージは最高潮になる。

 ビアさんカップルにも運命の瞬間が刻々と迫る。しかし思わぬ展開が待っていた。

 ビアさんが引く前に赤のくじがすべて出そろい、ビアさんはくじを引かずして兵役免除が決定。まさかの幸運に歓喜するビアさん。少し離れた場所から見守っていた彼女も喜びをあらわにする。

 一方、兵役が決まって卒倒した男性・パーヌウットさんには、付き添いの祖母と母親、そして上官となる軍人が満面の笑顔で寄り添う。

 パーヌウットさん「赤を引いちゃうなんて悲しいよ。軍になんて行きたくないよ!」

 パーヌウットさんの母親「甘えん坊で、今でも私たちと一緒に寝てるくらいです。訓練を受ければ、たくましくなってくれるでしょう」

 離ればなれになる親子と、ますます距離が近づいたカップル。世界に類のない2年間の兵役をかけたくじ引きは、毎年悲喜こもごものドラマを描き出している。

 ちなみに、くじを引かず、兵役を志願する選択肢もあるそうで、その場合、年齢に応じて兵役が6か月~1年ほど短縮されるそうだ。