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ブラジルでビジネスチャンスを狙う日本企業

2014年2月21日 16:29
ブラジルでビジネスチャンスを狙う日本企業

 ソチオリンピックで盛り上がる中、ブラジルではあと4か月に迫ったサッカー・ワールドカップを前に、インフラ整備が急ピッチで進んでいる。そんなブラジルでビジネスチャンスをつかもうとしている日本企業に注目した。

 2013年11月、ブラジルの北東部に位置するサルバドールに、日本企業約20社からなる経済視察団がやって来た。ブラジルでは、ワールドカップやオリンピックを見据え、空港や道路などインフラの整備が進められている。この4年間の政府の投資額は日本円にして40兆円以上。これを目当てに、ブラジル市場へ参入しようという企業のし烈な競争が始まっていたのだ。

 すでにビジネスチャンスをつかんだ日本企業もあった。サンパウロで建設中のグアルーリョス国際空港で指示を行っていたのは、“古河電工ブラジル法人”の土井弘之副社長だ。古河電工が空港のすべてのコンピューターネットワークを担当することになったという。実は、ブラジルの情報通信システムの分野で、古河電工は55%のシェアを誇っている。一体、なぜここまで成長を遂げることができたのだろうか。

 古河ブラジルは、社員840人のうち日本の本社から派遣されているのはわずか3人。30年にわたって古河ブラジルに勤める土井副社長も、日本生まれの日系1世なのだ。

 「小さい頃は、ものを設計してつくって、みんなのためにインフラをつくっていく、責任者とか技術者に憧れていましたね」

 土井さんは、その夢をかなえるために古河ブラジルに入社。技術者として工場長にまで上り詰めた。

 しかし、大きな危機が訪れる。2000年の終わり、ITバブルの崩壊だ。工場長として、数百人の仲間をリストラせざるをえなかった。その後、土井さんは副社長として営業の責任者になった。工場長時代の経験が、土井さんにある強い思いを抱かせた。

 「自分たちがとにかく動いてビジネスを作らないと、工場の人たちが、自分が経験したようなつらい目に遭うんだと」

 取り組んだのは、営業の“仕組み”を根底から変えることだった。

 かつて古河ブラジルは、製品を電力会社などの大企業に直接販売していた。しかし、この方法だと、ITバブルの時のように取引先が一つ倒産すると、年間の売り上げの大部分を失うことになる。そこで、土井さんは各地の小さな地元企業と提携関係を結び、物流や販売を委託。ブラジル全土に顧客を広げることで、一部の顧客に問題が起きても影響を受けにくくしたのだ。

 いま、新たなビジネスにも取り組もうとしていた。降り立ったのはブラジル南部にあるクリチバ。この街は、ある問題に悩まされていた。ホテルで起こる突然の停電…子供たちも怖がっている。ブラジルでは、1年の平均停電時間が18時間あまりと、日本の100倍以上だ。この電力問題を解決しようと、古河ブラジルが開発を進めているのが“スマートグリッド”だ。

 ブラジルでは電力網の1か所でもダメージを受けると、周辺の地域がすべて停電となってしまう。ダメージを受けた場所を迂回(うかい)する仕組みを網の目のように作ろうというのが、スマートグリッドなのだ。古河電工の松本卓三さんの説明によると「今まで電力って垂れ流しに使っていたのですけど、それをITを使って、通信網を使って賢く制御しようというのがスマートグリッドです」とのことだ。蓄電池に強い東芝や環境に配慮した建築に強い戸田建設などとチームを作って、ブラジル政府に対してスマートグリッドを売り込もうという動きが始まっていたのだ。

 「ブラジル社会にもっと先進国並みのインフラを作っていく中で、貢献できたら本当にうれしい。幸せだなと思います」

 土井さんは自らの仕事のやりがいをこう語っていた。

 世界で求められる日本の技術力。その可能性は大きく広がっている。