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支援“難病”拡大へ「内容に不安…」なぜ?

2013年11月28日 21:49
支援“難病”拡大へ「内容に不安…」なぜ?

 発症する原因や治療法もない、いわゆる「難病」の患者やその家族が注目する議論が大詰めを迎えている。政府は、難病の人々の声を受け、国などが医療費を補助する難病の対象の数を56から300程度に大きく増やそうとしているが、その内容に患者の間で不安も広がっている。一体、なぜなのだろうか。

 「宝くじに当たるより難しい病気だよと突然言われて、もう頭の中が真っ白で」-和田美紀さん(37)はアイザックス症候群という病気を患っている。アイザックス症候群は、手や足の奥が硬くなる病気で、常に痛みがあり、けいれんも続く。原因不明の神経系の病気で、患者が全国でわずか数十人、現在は国の難病補助の対象に入っていない。

 10年前の27歳の頃に発症、当初は病名が分からず、和田さんは看護師として働いていたが、症状が悪化し、退職。3年前には病気を苦に自殺を図ったこともあるという。

 和田さん「未来が何も見えないまま、真っ暗なまま進んで、ただお金だけ、医療費だけかかって、気がついたら睡眠薬を飲み、首つりしていた」

 北海道から、全国で唯一の専門医のいる鹿児島に両親とともに移住。少し歩く程度ならできるが、数分以上歩くと全身が激しく硬直して動けなくなってしまう。これまで救急車で何回も病院に運ばれたという。

 和田さんの母親「救急車呼んで救急隊来てもらったけど、どうしたらいいのか分からない、救急隊も」

 和田さんを苦しめているのは、病気の症状だけではない。それは医療費だ。

 和田さん「本当はもうちょっと病院にかかって手厚い治療が受けられれば一番いいんですけど、お金の問題は大きいと思います」

 激しい痛みやけいれんの悪化を抑えるために必要な薬や、入院することもあり、医療費は年間20万円以上だという。貯金もなく、親の年金に頼る和田さんにとって、こうした出費は大きな負担となっている。

 それが今後、国などから医療費の補助を受けられる可能性が出てきた。「潰瘍性大腸炎」という難病に指定されている病を患っている安倍首相は、難病対策の充実を掲げた。厚生労働省は先月29日、難病の新たな支援策を発表した。医療費補助の対象となる難病を現在の56から約300に広げ、医療費を補助する患者数も約78万人から約100万人に増やすという。

 アイザックス症候群を患う和田さんが新たに対象となれば、医療費に補助が出て金銭的な負担は軽くなる。

 和田さん「(国が難病として指定する)疾患が増えることに関してすごく希望を持っているし、私たちの病気はまだ認定されていないけれど、(認定されるための)全ての要素を含んでいるので、絶対入ると信じている」

 一方で、この見直しに希望を抱く人ばかりではない。都内に住む大石美菜子さん(36)はALS(=筋萎縮性側索硬化症)を患っている。ALSは、すでに医療補助の対象となっている原因不明の神経系の難病で、徐々に体を動かすことができなくなる。大石さんは今、まぶたを閉じることさえもできない。声も出せないため、体のうち唯一動く眼球で透明の板の文字を見つめ、意思を伝える。食事は胃に管で流し入れ、気管切開して人工呼吸器をつけて呼吸している。

 テレビ番組の制作会社で働いていた大石さんは5年前、突然体調が悪化し、ALSと診断された。

 大石さん「うそだと思った。だんだん身体(からだ)が動かなくなって」

 痛みなどの感覚や意識は残ったまま、体が動かなくなる苦しみ。大石さんは、政府の新しい難病対策に不安を募らせている。現在、全額補助されている医療費の一部が、自己負担となる可能性が出てきたからだ。

 現在の制度では医療費補助の対象となる難病は、大石さんが発症したALSを含め56しかない。ただ、56の難病については重症患者の医療費が全額補助されている。しかし、補助の対象となる難病の数を約300に増やした場合、全額補助というわけにはいかない。予算は限られているからだ。そのため、難病患者でも収入に応じて6段階に分け、最大で月4万4400円の自己負担を求めることが打ち出された。

 障害者雇用の一環として会社に在籍している大石さんの収入だと月に約1万2000円の自己負担が求められる可能性が出てきた。

 大石さん「今まで負担がなかったのに、なぜ負担がかさむのかよく分からない」

 今の制度でも、介助者用の手袋などの消耗品や通院などのタクシー代などで、医療費以外でも月に9万2000円ほどを負担している大石さん。

 大石さん「理解してとは言わないけれど、生きる=楽しいと思える人生を送りたいです」

 厚労省が先月末に出した支援策に対しては「負担が重過ぎる」と患者から不安の声が相次いだ。これに対し、田村厚労相は26日、「負担感が今までと比べると増えるという方々が厳しいという声をいただいていますので、なんとか対応できる形で最終の取りまとめをお願いしてきたい」と述べている。

 厚労省は、難病対策について患者の自己負担が最大月4万円を超える案を修正し、自己負担を最大でも月2万円程度にする案を検討しており、来月の決定を目指すとしている。難病対策に使える財源をどこまで確保できるのか、どうすれば納得が得られるのか、検討が続いている。