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反日デモ被害の百貨店が営業再開

2012年11月29日 19:22
反日デモ被害の百貨店が営業再開

 日本政府の調査によると、今年9月に中国で起きた反日デモで日系企業が受けた損害額は数十億から100億円にものぼるという。そんな中、日本から中国に進出し、同じように被害を受けたある百貨店が先月営業を再開した。藤田和昭記者が取材した。

 反日デモで破壊された百貨店の状態を見たとき、どう思われたのか、平和堂中国のトップ、寿谷正潔さんに聞いたところ「やられたなというだけの話で。中国で15年もやっていたら、いろんなことありますよ」という答えが返ってきた。平和堂は、本社のある滋賀県と姉妹提携を結んでいた湖南省からの要請で15年前に中国に進出した。当時は、サービスという概念が十分に浸透していなかったため「客にあいさつをする」「お釣りを投げない」といった基本から指導してきた。

 地元の人は「平和堂を信頼しています。大手の百貨店だしサービスも良くて、買い物もしやすいです」と語る。今年9月の反日デモでは店を臨時休業にして警察が警戒にあたった。しかし、暴徒化したデモ隊はシャッターやガラスを破壊。店に侵入した。百貨店のブランド店がある辺りはデモ隊に襲撃され、商品が奪われた。いまも当時の状態のまま残されている。宝石や高級腕時計などが奪われ、平和堂3店舗で被害額は約35億円にのぼった。「中国から撤退するなら店を売ってほしい」という申し出もあったが、撤退は全く考えていなかったという。寿谷社長は「リスクの部分と市場としての将来性」「総合的に判断して、さらにここで商売を続けようと決めて進めています」と話す。デモによる被害を教訓に、店では、シャッターやガラスをより強固なものに変え、万が一に備えることにした。

 6週間にわたる休業に追い込まれた店では、営業再開へ向けた研修が行われた。反日感情を持つ人から、危害を加えられる恐れがあるため、顔を出さないという条件で取材が認められた。指導を行うのは東之嗣店長。中国の習慣にあった接客をすることで、地域に根ざした店を目指している。営業再開の前日。夜遅くまで、陳列状況の確認が行われた。寿谷社長は「わくわくしてきたね。売り場を見るとね」と語る。中国人に受け入れられると思うか聞いてみると「そういう期待は持っていますけど、こればかりは今の時点ではあけてみないと、分からないというのが正直なところ」と語った。

 営業再開当日、開店30分前に従業員が集まり朝礼が行われた。シャッターが開き、6週間ぶりに訪れるお客の姿。不測の事態に備えて、私服警察が警戒にあたったが大きな混乱はなかった。買い物に来た客からは「よくここで買い物をします。肉も油もここで買います」「生活に必要なものは平和堂で買っています」という声が聞かれた。しかし、このインタビュー中にも通りがかった若者が「釣魚島(魚釣島)を守ろう!」とカメラに向かって叫ぶ場面があった。そしてインタビューに答えてくれていた男性も「当然です。釣魚島(魚釣島)は中国の領土です」と話した。

 平和堂の隣の建物には「尖閣諸島は中国のもの」と書かれた大きなポスターが張られていた。ウェブ上には店を「潰せる(つぶせる)なら潰す、潰せなかったら、営業停止にさせる」と書き込まれたりしている。デモはおさまったものの、中国での反日感情は、くすぶったままだ。リスクを見極めつつ、中国でのビジネスを続けると決めた平和堂。来年4月には、中国で4つ目となる店舗をオープンし事業を拡大する予定だ。