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米大統領選挙に見る「中傷広告の裏側」

2012年11月2日 12:58
米大統領選挙に見る「中傷広告の裏側」

 アメリカ大統領選挙まで1週間を切った。オバマ大統領と共和党・ロムニー候補の大接戦が続く中、中傷広告合戦が激しくなっているが、今回の選挙では新たな動きも目に付く。ワシントン支局・平野亜由子記者が取材した。

 「約束する!」「約束する!変化は必ず訪れる!」というオバマ大統領の過去と現在の映像を取り上げ、「同じスピーチ。同じ約束。あなたの生活はよくなりましたか?」と問いかける共和党の中傷広告。「ミット・ロムニーが投資ファンドを率いていたころ、何百もの工場、店が閉鎖された。そして雇用は海外に流出した。ロムニーは“解決策”ではない。“問題”だ」と指摘するオバマ陣営による中傷広告―2010年の最高裁判決を受け、選挙広告に資金を無制限に使えることになったことから、今回の選挙では、オバマ陣営、ロムニー陣営ともに選挙広告に200億円以上を投入した。そして、その8割以上が相手を攻撃する内容になっている。

 そんな中、有権者が独自に中傷広告や映像を作る動きも広がっている。先月16日に行われた大統領候補による討論会の際、ニューヨークのアパートの一室には若者が集まり、テレビを前にして両候補の発言に一喜一憂していた。

 若者たち「ははは。ロムニーはいつも同じこと言うよね」「いいぞ!いいぞ!オバマ、うまいこと言った」

 その集団の中で、パソコンを片手に真剣なまなざしで討論会に見入る人の姿があった。ミュージシャンのジョナサン・マンさん(30)だ。オバマ大統領を支持するマンさんは、これまでにもロムニー候補を批判する映像をいくつか制作し、インターネットの動画サイトに投稿している。この日もロムニー候補の発言を使って新たな映像を作る準備をしていた。

 そして、マンさんは、ロムニー候補が発したある言葉に目をつけた。ロムニー候補はこの日、知事時代に女性職員を大量に雇うため、「自分のファイルには女性の履歴書が詰まっていた」と言うべきところを「女性がつまったファイル」と発言したのだ。

 マンさんは討論会が終わると、すぐにスタジオへ移動。ロムニー候補の発言をもとに歌詞を書き上げ、電子ピアノやギターを使って曲を作り、最後に映像を編集した。この間、約2時間。完成した映像からは―

 マンさんが作った映像「私が知事時代に、女性職員採用のために女性をもっと連れてこいって言ったんだ♪」「女性がつまったバインダー♪」「女性がつまったバインダー♪」「女性がつまったバインダー♪」「Oh Yeah~♪」―軽快な音楽とともに、ロムニー候補の“女性がつまったファイル”というフレーズがテンポ良く繰り返される。

 ロムニー候補の発言は「女性をモノ扱いしている」と一部の女性有権者から強い批判を浴び、動画サイトに投稿されたマンさんのこの作品も、既に8万人以上が見る“ヒット”となっている。マンさんは中傷広告や映像を作る際には「正確性よりもスピードが大切。明日になったらこの発言はもうホットな話題じゃなくなっているかもしれないから」と、語る。ソーシャルネットワークの発達で、インターネット上にはマンさんのような有権者が独自に作った中傷広告や映像があふれている。

 かつて、大統領選挙で、クリントン元大統領のメディア戦略を担当したハンク・シェインコフさんは「アメリカ文化にはゴシップとエンターテインメント性が欠かせない。選挙広告にはそうした文化が反映されている」「プロではなくても選挙広告を作ることが可能になっている。そうした広告は安っぽかったりするけれど、一定の影響力はある」と、その力は無視できないと話す。

 有権者が独自に作った中傷広告や映像。投稿されたものがアメリカメディアに大きく取り上げられるケースもあり、オバマ、ロムニー両陣営にとって見過ごせないものとなっている。