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開発か環境か…アマゾンの巨大ダム建設

2012年8月3日 13:11
開発か環境か…アマゾンの巨大ダム建設

 2014年のワールドカップ、そして2016年のオリンピックの開催国であるブラジル。いま、経済成長を続けるブラジルがある問題に直面していた。「開発と環境」どちらを優先させるのか…。アマゾン川に建設中の巨大ダムをめぐる問題を、ニューヨーク支局・柳沢高志記者が追った。

 ブラジル北東部の町、アルタミラ。アマゾン川の支流“シングー川”を1時間ほど下ると、土色の堤防が見えてきた。アマゾン川に建設中のベロモンテダムだ。完成すれば世界で三番目の大きさとなる巨大ダムである。ダムの撮影をしていると、建設現場の警備員が近づいてきて「ここは危険だから立ち去りなさい」と、忠告してきた。この厳重な警備には理由があった。

 反対派による抗議活動。そこには、アマゾンの先住民の姿もあった。なぜ、ダム建設に反対するのだろうか。先住民保護の専門家・マルセロ氏に尋ねた。

 「計画によると、ダムは川のこの部分をせきとめ、水路を造って人口の池に水をためるのです。この周辺には多くの先住民が住んでいますが、川が干上がってしまう可能性が高いのです」

 20キロにもわたって川の流れを変えるダム計画。先住民の村を流れる川が干上がるおそれが指摘されているのだ。

 アルタミラの町でグレージュンさん(22歳)という女性と出会い、その自宅を訪ねた。彼女の体全体に施されていたのはアマゾンの奥深くに暮らす先住民“シクリン族”伝統のペイント。「明日、村に帰るためにペイントしています」と、彼女は教えてくれた。グレージュンさんは、シクリン族の一人なのだ。グレージュンさんは将来、シクリン族の村で子供たちの先生になるために、町の高校に勉強に来ている。グレージュンさんの村にとってダムの建設は死活問題となっていた。彼女は深刻な表情を浮かべながらこう語ってくれた。

 「とても怖いです。川が干上がって魚が死んでしまうこと。それが私たちにとって何よりもおそれることなのです」

 広大なアマゾンの森林の中で数百年以上も変わらない、文明から閉ざされた生活を送ってきたシクリン族。シクリン族にとって川は欠かすことのできない生活の場なのだ。

なぜ、ブラジル政府はいま、ダム建設を進めるのだろうか。建設を行う電力会社の責任者を訪ねた。そこで責任者はこう説明してくれた。

 「ブラジルが年間3~4.5%の経済成長を続けるためには、3000メガワットのエネルギーが必要なのです。水力発電はクリーンなエネルギーなのです」

 私たちは、ダム建設現場の内部を撮影することを許可された。地面がむきだしとなった広大な建設現場に工事用車両が次々と土煙をあげながら行き来する。さらに、住み込みで働く2万人以上の作業員のための娯楽施設や食堂、理髪店までそろっていて、アマゾンの中とは思えない光景が広がっていた。

 巨大ダムの建設は町に変化をもたらしていた。ダム建設によって町には大勢の人が流れ込み、ホテルは建て増し工事を行っていた。さらにダム建設の補償として、電力会社は町に保育園やクリニックを建設。クリニックの利用者は「以前は子供の予防接種を受けるために遠くまで行かなければなりませんでしたが、とても近くなりました。ダムのおかげで町にも色々な変化が起きていてとても良いことです」と、語る。町では、ダム建設に対し賛成と反対の真っ二つに意見が割れていたのだ。グレージュンさんは、自らの心の内を強く訴える。

 「私が望んでいるのは、これまで通り、村の家族や親類が釣りや狩りや踊り、ペインティングをしながら明るく暮らしていけることだけです。アマゾンは私たちの命です。私はアマゾンの自然を守るために戦っていきます」

 先住民たちの思いは通じるのだろうか。ダムは2015年に発電を開始する予定だ。