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ギリシャの財政再建、これからの期待と課題

2012年6月28日 16:32

 ようやく新しい内閣が発足したギリシャ。しかし、巨額の借金を抱えた「財政再建」という難題が、依然として立ちはだかっている。そんなギリシャ国内ではいま、海外からの投資に期待が集まっている。ロンドン支局・渡辺祐史記者が取材した。

 世界中が注目したギリシャの再選挙では、「緊縮財政を続ける」と主張した新民主主義党が第一党となった。サマラス党首が首相に就任し、2度に渡る選挙を経て、ようやく新政権が発足した。「(政権樹立に時間がかかって)がっかりしているけど、すべてが上手くいって、何かが変わることに期待したいわ」と、市民の一人は語る。

 ギリシャでは2010年から、公務員のリストラや増税といった緊縮策が次々に実行されている。年金が減ったうえに税金が上がり、将来を悲観し自殺する高齢者も出ている状態だ。一方で、失業率は上昇を続け、緊縮策を続けるだけでは効果が上がらないという声も出ている。新政権は緊縮策を緩められるようEU(=ヨーロッパ連合)などと交渉するとしているが、実現するかは未知数だ。

 サマラス新首相は、どんな手法で疲弊した経済を立て直そうとしているのだろうか。首相の経済アドバイザーを務める大学教授を訪ねてみた。ディミトリオス・ツォモコス教授は、「あらゆる投資が効率よく参入できるように、投資に関する法律をすみやかに改正したい」と、話す。経済再生のキーワードのひとつは「海外からの投資」。さらに、教授は“ある国”に対する期待を口にした。

 「中国からの投資は大歓迎です。サマラス首相は関係をより強固なものにするため、最初の外遊先のひとつとして中国を選ぶだろう」

 あらゆる地域で存在感を増す中国。実は、ギリシャでは経済危機前から、中国企業が大規模な投資を行っていた。中国の海運会社「COSCO(コスコ)」もそのひとつ。COSCOの支店で出迎えてくれたのはギリシャ人のバンバキディスさん。中国から派遣された総支配人のもと、広報などを担当する部長として働いている。COSCOが進出したのはアテネ近郊のピレウスにあるコンテナ港。もともとは国の持ち物だったが、2008年、約4000億円(45億ユーロ)を支払い35年という長期のリース契約を結んだ。バンバキディスさんは「ピレウス港は地中海の東に位置するハブ港で、ヨーロッパやアジア、アフリカなどが交わる海でもあるのです」と、港の特徴を説明する。ピレウス港は、中国から見ればヨーロッパの玄関口にあたり、各国に物資を運ぶための物流拠点にもなっている。この3年間、ギリシャが経済危機に陥っても、コンテナの取扱量は7割以上アップし、新しい埠頭(ふとう)も建設中だという。バンバキディスさんは「潮の心配や強い風、ハリケーンもない。ここは安全な港だよ」と、話す。

 COSCOのギリシャ進出当初は、「雇用機会を中国に奪われる」と労働組合などが批判したこともあった。しかし会社側は、労働環境に問題はなく、下請けも含めると、700人以上を地元から雇用し、さらに200~300人を雇う予定だとしている。ギリシャ人の労働者からは「失業者があふれている中で仕事がもらえているから、みんな喜んでいるよ」との声も聞かれる。一方で、中国人従業員は、「ある意味ではビジネスだが、ギリシャに対する協力という意味合いもある。その両立は可能だよ」と説明する。

 成長が期待できる産業が国内に乏しい中、ギリシャ政府は鉄道や空港など国有資産を海外の企業などに売却し、借金返済に充てる計画だ。しかし、ツォモコス教授は投資を集めただけでは経済を再生できないとも指摘している。ツォモコス教授は、その問題をこう語る。

 「ギリシャ経済に対する期待やビジネスに対する信頼感を取り戻すことが重要です。肥大化して無気力な状態の官僚機構を根本からリフォーム・合理化しなければ実現できない」

 長年、“公務員天国”とも揶揄(やゆ)されてきたギリシャで、お役所仕事を一掃し、海外からの投資を経済再生につなげられるのか。サマラス新首相の手腕が試されている。