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広島県、鞆の浦架橋の撤回表明 地元は反発

2012年6月25日 19:46
広島県、鞆の浦架橋の撤回表明 地元は反発

 日本有数の景勝地である鞆の浦(広島・福山市)の一部を埋め立てて橋を架ける計画をめぐり、広島・湯崎英彦県知事が25日、福山市を訪れ、羽田皓市長に計画の撤回を伝えた。

 鞆の浦は、「万葉集」に詠まれた日本有数の景勝地であり、坂本龍馬ゆかりの地である他、宮崎駿監督がアニメ映画「崖の上のポニョ」の構想を練った町としても知られている。宮崎監督は09年、鞆の浦の魅力について「道を歩くと、歩いている間、誰にも会わない。林の下に見える、遠くを走る船の音が聞こえるだけ。脳みその奥まで酸素が届いた気がして戻ってきた」と語っていた。

 鞆の浦では今、町の沿岸を埋め立てて橋を架け、全長680メートルの道路を造る事業をめぐり、住民の意見が二分している。これは広島県が29年前に計画したもので、町では長年問題となっていた。万葉の時代からの古い町並みを残す鞆の浦は、道路が狭く、車がすれ違うのも困難で、交通が不便なため若者が町を出てしまい、高齢化が進んでいる。

 事業の推進派である広島県の担当者は、「(町の)衰退が危惧されるような状況を何とか食い止め、町を守っていくという観点から、この事業を進めて参りたい」としている。しかし、住民の一部は、歴史的な景観を損なうとして埋め立てに反対している。

 この問題をめぐり、広島県側は22日、計画を撤回し、代わりに山側にトンネルを掘り、道路を造る方針を打ち出した。湯崎知事は25日、問題解決に向けて福山市を訪れ、「埋め立て架橋は、観光面で中長期的にマイナスのインパクト」として、羽田市長に計画の撤回を説明した。

 しかし、羽田市長は、トンネル案では問題が解決されないとして、あくまでも埋め立てを主張した。会談後、羽田市長は「トンネルが(住民の)生活道路になり得るとは思っていない。我々のこれまでの努力は何だったのか。全否定された」と述べた。

 停滞したままの鞆の浦の町づくりは進むのか。県の方針転換に地元の理解が得られるかが課題となっている。