×

伝統のテディベア工場に何が!?

2012年2月29日 16:10
伝統のテディベア工場に何が!?

 イギリスの伝統“テディベア”。これを製造するイギリスの会社が、一時操業を停止するまでに追い込まれた。いったい何が起きているのだろうか。ロンドン支局・渡辺祐史記者が取材した。

 イギリス中西部にあるシュロップシャー州・テルフォード。世界最古の鉄橋が残り、産業革命発祥の地とも言われるこの街に、80年以上の歴史を持つ小さな工場がある。

 「有名なメリーソートのテディベアを作っているの。すべてハンドメードなのよ!」

 テディベア製造元の1つとして世界中のファンから支持を集める“メリーソート社”。デザインから生地選び、縫製まで地元に住む職人が1つずつ手作業で作っていく。工場内を案内してくれたのはサラ・ホルムスさん。生地を縫い上げる工程も「ここで組み立てるのよ。テディベアの最初の形ができるの」と、紹介してくれた。鼻を作る作業では、1つ1つ手縫いで縫いつけることによって、表情に違いが出るという。

 1930年に創業したメリーソート社は、ロンドンオリンピックの組織委員会が認定しているテディベアの唯一の製造元でもある。イギリス王室にも愛用されていると言われ、かつては最大で約200人の従業員が働いていた。しかし、現在の従業員は25人。一時は操業停止にまで追い込まれた。歴史ある会社がそこまで規模を縮小した背景にはある国の存在があった。

 「中国はぬいぐるみ業界でも低価格で大量生産という驚きのサービスを実現してます」

 サラさんは、表情にどこか戸惑いをにじませながらそう語ってくれた。オリンピックグッズを販売する公式ウェブサイトでは、ほとんどのぬいぐるみが高くても20ポンド台(約2500~3500円)で売られる中、テディベアは85ポンド(約1万1000円)。イギリス国内で職人によって作られるテディベアは、中国に製造を委託した場合に比べコストが10倍以上もかかるという。手作りにこだわることで生き残りを図っているが、厳しい経営を強いられているのが現状だ。サラさんは「ヨーロッパの消費者も安くて品質の良いぬいぐるみを求めています。行き着くところは中国の安い労働コストだと思います」と、マーケットの動向を教えてくれた。

 安い労働力で大量生産が可能な中国の力。同じ町にある、オリンピックの公式マスコットの販売元となっているこの会社でも、ぬいぐるみだけでなくペンやキーホルダーといったオリンピックグッズのほとんどが中国で作られ、イギリス国内ではデザインと出荷を担当するだけだという。

 ロンドンオリンピックの公式マスコットは、メーンスタジアムを作る過程で出た鉄くずが、おじいさんと孫たちの思いを乗せて生まれ変わったという設定だ。中国が国内産業を席巻している中、イギリスは産業革命発祥の国としてその歴史と工業力をアピールできるのだろうか。