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危険なのになぜ?“レール電気療法”

2012年1月25日 15:10
危険なのになぜ?“レール電気療法”

 電流を体に流し病気を治療する電気療法。この電気療法を危険な方法で試そうとする人がジャカルタで増えているという問題を、山下雄三記者が取材した。

 インドネシアの首都・ジャカルタの郊外にあるラワブアヤ駅。ここではほぼ毎日、不思議な光景が見られる。人々が線路に体を横たえている。よく見ると、皆、腕や足をぴくぴくとけいれんさせている。何をしているのか聞いてみると、「電気が通って気持ちいいので来ています。筋肉痛に効きます」と、答えてくれた。レールに電気が流れていて、その刺激で疲れが取れるというのだ。

 長年医者にかかっても解決しなかった足の痛みが、この電気療法で治ったという女性に話を聞くと、「最初に来た時は歩けなかったのよ。何度も医者に行ったけど、ここに来てから良くなったのよ」と、笑顔で語ってくれた。

 レールに流れている電気は、線路沿いの信号機を動かすためのもの。左右のレールに同時に触れると、軽く体をたたかれるような刺激を感じる。これが、病院で受ける電気治療に似ていると近所の人がレールに寝そべり始めたのをきっかけに、ほかの地域からも人が集まるようになった。多いときには、100人以上が線路に横たわっているという。集まっている人たちは、口々に、この線路セラピーのおかげで健康になったと話している。

 しかし、近所の医師は効能には否定的で、「これは心理的なものだと思うよ。精神的に治ったと思っているだけかもしれないね。我々の体は鉄道とは違うから、心臓や脳に悪い影響がでる恐れがあります」と、逆に危険性を指摘している。

 また、線路では約30分おきに列車が走っていて危険なため、鉄道当局はこのブームに渋い顔だ。駅員は「セラピーをする人も危険だし、人が集まることで地域も危険にさらされます」と、懸念を示している。

 線路脇には「立ち入り禁止」「禁固刑や罰金を科す」と警告する看板が設置されたが、それでもセラピーに来る人が後を絶たない。線路に横たわる女性がこう語ってくれた。

 「病院に行くと高い治療費を払う必要があるけど、ここはお金の心配がないからね」

 線路に集まってくる多くは、生活に余裕のない貧困層の人たちだ。線路セラピーブームの背景には、病気を治したくても治療を受けるお金が無いという切実な現実があるといえそうだ。