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危機に瀕する欧州経済 12年の見通しは…

2011年12月31日 2:55

 ヨーロッパでは、ギリシャの財政危機を引き金に信用不安が広がり、世界経済にも大きな影響を与えている。12年のヨーロッパ経済の見通しについて、パリ支局・野尻仁記者が報告する。

 ギリシャの財政危機を受け、ヨーロッパ連合(EU)は、信用不安が他の国に広がるのを防ぐため、ギリシャに対して追加融資や借金の棒引きなど緊急の対策を打ち出した。

 しかし、信用不安は経済規模が大きいイタリアにも広がり、ベルルスコーニ政権は退陣に追い込まれた。その後も、イタリア国債の利回りは、財政運営が難しくなる危険水準といわれる7%に近い状態が続いている。

 イタリアに次いで不安が高まっているのがスペインだ。

 今年11月、首都・マドリードの市営住宅に住む7人家族が、家賃を払えなくなったため強制退去させられることになり、近所の人たちが強制退去を中止させようと、市の担当者に詰め寄る場面も見られた。強制退去させられた男性は「スペインは今、仕事がなくてお金がない。毎月の請求書を支払うことができないんだ」と話した。家族には幼い子供が3人もいるが、これから住む場所はないという。

 自治体が強制退去を急ぐのは、家賃の支払いが滞ると財政再建を進める上で大きな負担となるからだ。地元メディアによると、スペインでは、一日に200軒もの家庭が強制退去させられているという。

 さらに、スペインでは、08年のリーマンショック後に不動産バブルが崩壊し、建設業界を中心に失業者が急増。失業率は20%を超え、EUの中で最も深刻な状況となっている。特に若者の失業率は40%を超えており、職業安定所にはいつも長い列ができている。ある男性は「失業してから約2年。探して回れば仕事が見つかるかもしれませんが、とても難しいです」と話した。

 景気低迷による高い失業率は、財政危機に陥っている国に共通している。EU各国は、赤字を増やさないために財政規律を強化することで合意した。しかし、現状では赤字を減らすのは難しいという見方もある。「三菱東京UFJ銀行」の居村元・パリ支店長は「かなりの規模での緊縮財政をせざるを得ない。それが景気の下押し効果をもつ。税収が削減されて財政赤字の拡大につながっていく可能性が非常に高い」と指摘している。

 EUが打ち出した、債務国を支援するための基金の積み上げなどについても「対策は不十分」というのがマーケットの反応だ。こうした中、ドイツやフランスも含めたユーロ圏の国々の国債が、一斉に格下げされる懸念が高まっている。居村支店長は「様々な要因が複雑に絡み合った危機。ヨーロッパの経済的状況は長期化していく可能性が極めて高い」との見方を示している。

 ヨーロッパの信用不安が世界経済にとって大きなリスクとなっている状態はしばらく続くとみられる。