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露で続く日本食ブーム、すし職人が腕を競う

2011年11月16日 15:01
露で続く日本食ブーム、すし職人が腕を競う

 日本食ブームが続いているロシアのモスクワで寿司(すし)職人のコンテストが行われ、熱い思いを秘めた参加者たちがその腕を競った。モスクワ支局・片野弘一記者が取材した。

 モスクワ市内には、ここ数年、大型のショッピングセンターが次々とオープンしているが、そこに“必ず!”と言っていいほどあるのが日本食のレストランだ。日本食がロシアで広く知られるようになってから、実はまだ15年ほどしかたっていない。しかし、モスクワ市内には現在、300軒を超す日本食レストランがあり、その数は毎年増え続けている。

 日本食の中でも、人気の中心はやっぱり「寿司」だ。握り寿司ならサーモンとマグロ、そして具のたっぷり入った巻物も好評のようだ。店内のお客さんに寿司について尋ねてみると、「毎日のように日本食を食べているけど、巻物が一番好きよ」「週に3~5回は来るよ」との声が返ってきた。

 日本食のブームを受けて9月、モスクワでは寿司職人のコンテストが開かれ、本物の寿司職人を目指す“腕自慢”たちがロシア各地から集まった。コンテストの出場者たちは、「8年間、修行しました。コンクールで自分の力を試してみたいです」「勝つために、ここに来ました」と、それぞれの思いを語る。

 「3、2、1、スタート!」という司会者の合図とともに、出場者たちが一斉に調理を開始する。コンテストに出場するための書類選考を勝ち抜いたのは12人。指定された“にぎり”や“巻物”をいかに早く正確に作れるかを競う「スピード・コンテスト」と、見た目の美しさと味を競う「デザイン・コンテスト」の2つの部門に挑む。観客のほとんどは食品産業やレストランの関係者たちで、出場者の包丁さばきや、その作品に興味津々だ。「日本料理の専門家が、どんな傾向や技術を見せてくれるのかに期待しています」と観客の一人は語る。

 コンテストの作品ができあがると大勢の観客が、それを取り囲み、そして厳しい視線を注ぐ。皿の上には、かつお節をまぶしたような寿司や、キュウリとマグロを使ったもの、そしてウナギ…さらには見た目では判断できないようなものまでが並ぶ。サーモンとトビウオの卵、そしてアボカドなどが使われた巻物を試食してみると、複雑な味ながらも、なかなかおいしくいただけた。

 コンテストの優勝者は、日本に招待され、寿司や日本食について学ぶことができる。会場では優勝者の名前が読みあげられた。ナンバーワンに輝いたのはミハイル・サモノフさん。戦いの前に、「コンクールで自分の力を試してみたい」と語ってくれた男性だ。

 在ロシア日本大使館の井出敬二公使は、「これからは、ロシア人は本当においしい寿司というのは、どういうものなのか関心を持つと思います。ですから、日本の関係者が本当においしい寿司というのはこういうものなんだよと教えてあげたら、もっともっと伸びてゆくと思います」と、その可能性を語る。

 「寿司は2週間も練習すれば握れるようになる」…かつてはそんな言葉がまかり通ったロシアだが、近い将来、日本の一流レストランをしのぐような味を楽しめるかもしれない。思わずそんな期待を抱いてしまう熱気が、この国には潜んでいるようだ。