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自衛隊の本格拠点、「ジブチ」の町を取材

2011年7月13日 16:59
自衛隊の本格拠点、「ジブチ」の町を取材

 ソマリア沖で海賊対策にあたる自衛隊の新たな拠点が、アフリカ東部・ジブチに誕生した。海外で初めての本格的な“基地”となる現地では、ある変化も起きている。その様子を富田徹記者が取材した。

 午前5時、ジブチにある自衛隊の拠点では、3時間後の飛行に向けた準備が着々と進められている。海上自衛隊の「P3C哨戒機」がこれから飛び立つのは、日本と天候もまるで違うアフリカの空…入念なチェックが続く。任務は、ソマリア沖の海賊を上空から監視すること。約8時間の飛行を週3回のペースで行う。日本政府は、この活動を10年以上の長期に渡り続ける構えだ。

 ジブチには、この任務を支える約180人の要員が常駐する拠点が作られた。さらに、ジブチの港には海上自衛隊の護衛艦が派遣されている。ソマリア沖を航行する船を海賊から守るためだ。合わせて500人以上の自衛官が滞在する国となったジブチだが、町では、ちょっとした変化が起きていた。

 たとえば、アイスクリーム屋には、店を訪れる隊員向けに日本語で書かれたメニューが登場した。ジブチに寄港中の自衛官は、「日本語のメニューがあると、やっぱり親近感がわきますね」と、笑顔をみせる。中には、きれいに盛りつけられた“お造り”をメニューに出すお店もあった。この店では、自衛隊がジブチを訪れるようになった2年前から和食をメニューに加えたという。

 しかし、ジブチの人々にとって自衛隊はいわば外国の軍隊。警戒心はないのだろうか。ジブチの人に尋ねると、「自衛隊の拠点ができても、すでにフランスやアメリカの基地があるから、何も変わらないよ。“おまけ”みたいなものだからね。自衛隊の拠点誕生は、ジブチにとっていいことだと思うよ。仕事が増えるだろうし、経済にとっても良い影響があるだろう」と、分析する。経済的なメリットへの期待の方が大きいようだ。

 一方、自衛官たちは、日本から遠く離れた国で任務を続けることをどう感じているのだろうか。市内のレストランに食事に来ていた、護衛艦で寄港中の隊員たちに聞いてみた。北園三等海曹は、「どちらかといえば、震災派遣に行きたかったというのはあります」と、“日本への思い”を語る。彼らが日本を離れたのは3月15日。実に、東日本大震災発生から4日後のことだった。宗海一等海士と牧二等海曹は、それぞれ「日本が大変な時に海外派遣に行っていいのかなと思った」「近所の人からは、『日本の国益にかかわるような仕事だから、胸を張って行ってきなさい』と言われた」と、当時の様子を振り返る。

 日本でも活躍の場があったはずなのに、あえて海外での活動に参加しなければならない理由は何なのか。若い隊員たちには葛藤(かっとう)があるようだ。そこで、ジブチで空の任務にあたる隊員にも話を聞いてみることにした。

 現在、ジブチの空で活動しているのは、東日本大震災時に空から遭難者の捜索などを行った青森・八戸の部隊。「P3C哨戒機」の乗員、服部一等海曹も震災発生当日から被災地上空を飛びまわった一人だ。服部さんは、「一番はじめに見たのが、気仙沼の悲惨な光景。私もああいう光景を見るのは初めてで、クルー全員が言葉を失っていました」と、当時を振り返る。震災復興支援の任務途中で、海外に来たことへの心残りはあるのだろうか。この問いに対して服部さんは、「こちらもやはり日の丸のためにやっている仕事ですので、与えられた任務をやるだけです」と、話してくれた。

 遠く離れた異国の地で日の丸を掲げることの意味…それは常に問いかけ続けていくべきことなのかもしれない。