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原発キーワード「コウナゴ」

2011年4月22日 7:52
原発キーワード「コウナゴ」

 原子力発電所に関する報道、水や食物などへの影響に関する報道の中で、わかりにくい言葉や気になる情報を毎回1つピックアップし、日本テレビ報道局の担当記者が解説する「原発キーワード」。21日は、「コウナゴ」について鈴木杏奈記者が解説する。

 政府は20日、福島県で水揚げされたコウナゴについて、国の暫定規制値を超える放射性物質が検出されたことから、摂取制限と出荷制限を福島県知事に指示したことを明らかにした。コウナゴからは、茨城県でも放射性物質が検出されていたが、なぜコウナゴばかりから放射性物質が検出されるのだろうか。

 コウナゴは今、旬を迎えている。これに加え、福島県から茨城県にかけては、たくさんとれるいい漁場という事情がある。これまでに基準値を超える放射性物質が検出されているのは、福島・いわき市沖で取れたコウナゴと茨城・北茨城市沖で取れたコウナゴ。いずれも、検出されて間もなくコウナゴの出荷は自粛されたので、市場には出回っていない。

 一方で、これより南の茨城・ひたちなか市、千葉県の銚子市や勝浦市などでも、様々な水産物のサンプル調査が何度も行われているが、コウナゴから基準を上回る放射性物質は検出されていない。

 地域によって違いが出る主な理由は2つある。1つ目は「福島第一原発からの距離」。この時期の太平洋側の海流は、北から流れてくる親潮と南から流れてくる黒潮が茨城県沖でぶつかって混ざり、東に流れている。福島第一原発から大気中に放出された放射性物質がどこまで飛散しているのかは正確にわかっていないが、汚染された海水は千葉県より南には流れにくいことがわかる。

 2つ目の理由は「魚が泳いでいる深さ」。福島第一原発に近い北茨城市でも、ヤリイカやアナゴなどコウナゴ以外の魚は基準値を超えていない。コウナゴは水深4~5メートルの浅い場所を泳いでいるのに対し、ヤリイカやアナゴは水深100メートル以上と深い場所を泳いでいる。このため、最初に影響を受けてしまうのは、どうしても浅い場所を泳いでいるコウナゴのような魚となってしまう。

 放射性物質は時間の経過とともに沈んでいくが、沈むと同時に拡散されていくので、深い所を泳いでいる魚にほとんど影響はないとみる専門家が多い。実際、文科省が行っている最近の海水のサンプル調査でも、水深が浅い所で放射性物質の濃度が高いことが確認されている。

 消費者側への影響の他、漁業に携わる人たちへの影響も大きい。福島県では、港が津波の被害を受けている上、福島第一原発からの距離がとても近いため、すべての漁が見合わされている。茨城県では、復旧した一部の港で漁が再開されたが、茨城県沖や千葉県沖というだけで市場で値がつかなかったり、値がついても採算ラインを下回る低い値段になったりしている。サンプル調査の結果では、コウナゴ以外の魚は問題がないことが確認されており、偏見を持つことなく、こうした風評被害を抑えたいものだ。

 「売れない」というのも大変な問題だが、何よりも原発の事故を収束させて一日も早く通常の漁に戻れることが望まれる。