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「北米国際自動車ショー」で市場に異変?

2011年1月19日 16:54
「北米国際自動車ショー」で市場に異変?

 世界有数の規模を誇る「北米国際自動車ショー」がデトロイトで開催されている。自動車メーカー各社が、エコカーや小型車に力を入れる中、アメリカ市場では「ある異変」が起きている。そのもようを杉山亮記者が取材した。

 世界初公開の車がずらりと並ぶアメリカ・デトロイトの北米国際自動車ショー。金融危機以来、出展取りやめや縮小が相次いでいたが、今年は華やかさを取り戻しつつある。4年ぶりに出展を再開したポルシェは、ハイブリッドのスーパーカーを発表。GMやフォードなどアメリカの各メーカーも、巨大な展示スペースを構えて「復活ぶり」を懸命にアピールしている。自動車ジャーナリストの桃田健史さんは、「やっと“デトロイト復活”という感じがする。リーマンショック後、底をうったという感じは、北米国際自動車ショーの場内の雰囲気からも伝わってくる」と、語る。

 各社の新車発表会で目立ったのは、やはり小型車やエコカー。しかし、アメリカのメーカーの展示ブースを見ると、一番目立つところには、今、アメリカ市場で売れている大型車が展示されている。大きく扱われていたのは、ピックアップトラックやSUV(スポーツ用多目的車)、ガソリンやディーゼル燃料を使う大型車だ。自動車ジャーナリストの桃田健史さんは、この傾向を「現状では、小型車が動いていない。消費者動向が今ひとつ、つかめないというのが各メーカーの本音ではないか」と分析する。

 最近の自動車業界のトレンドは、言うまでもなく「環境対策」だ。2010年12月、アメリカ市場では日産が電気自動車「リーフ」を発売。その直後、GMも補助エンジンを積んだ電気自動車「ボルト」を発売した。アメリカでは、電気自動車はどのように受け入れられているのだろうか。

 西海岸の美しい坂の街・サンフランシスコ。ここでは、市を挙げて電気自動車に優しい街づくりを進めている。市役所の正面に設置された電気自動車用の充電器は、そのシンボル。さらに、ホテルでも充電器の設置が始まっている。会員カードなどを充電器のセンサーにかざして使い、フル充電にかかる料金は、車種などにもよるが、1台あたり約3ドルから5ドルの見込みだという。

 「エコ」という言葉が世界を駆けめぐった2010年。しかし、アメリカでは日本のようにエコカーの普及は進んでいない。実際、2010年のアメリカでは、新車販売台数のうち、ハイブリッドカーの割合が大きく落ち込んだ。また、電気自動車へのユーザーの関心もまだまだ限定的だ。広大な国・アメリカの人々は1年間で約2万キロも運転するという。これは、実に日本人の約2倍。小型で、走行距離が十分でない電気自動車では、不安が残るのも事実なのだ。大和証券キャピタルマーケッツ・白石幸毅アナリストは、「マーケットのニーズに対して、ど真ん中、いわゆるストライクゾーンに入っているとまでは言い切れない。誰でも使えるという実用化段階にはないレベルだと思う」と、説明する。

 大型車復活のもうひとつの大きな理由はやはり経済事情だ。ガソリン価格が比較的安定したことに加え、リーマンショック以降の不況で、目的に応じて車を持つという経済的余裕がなくなったため、たくさんの人や荷物を乗せることができる「最大公約数の車」が売れているとの見方もある。

 自動車大国アメリカの大型車復活の動きは、弱々しい経済状況や消費力の衰えを示したものとも言えそうだ。