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米同時多発テロ10周年 消えぬテロの脅威

2011年1月2日 22:03

 今年は、アメリカで起きた同時多発テロから10周年にあたる。しかし、アフガニスタンでの軍事作戦は続いており、テロの脅威は消えていない。NNNニューヨーク・正田千瑞子記者が報告する。

 去年、アメリカ・ニューヨークの冬の風物詩、ロックフェラーセンターのクリスマスツリーは、消防士のピーター・アクトン氏の庭から運ばれた。同時多発テロで最初に現場に駆けつけた消防士の一人で、自宅の庭の木が今年のツリーに選ばれたことを「とても誇りに思う」と語った。7日まで冬のニューヨークを彩る。

 しかし、世界中から観光客が集まる点灯式には、警備員の姿が目立った。少し前に、アメリカ・オレゴン州でツリーの点灯式を狙ったテロ計画が発覚したためだ。去年5月にはタイムズスクエアで爆弾テロ未遂事件が起きるなど、ニューヨークは現在もテロの脅威と常に隣り合わせだ。

 一方、同時多発テロの際に救助活動を行った「ヒーロー」の中には、現在もその後遺症に苦しむ人がいる。アメリカの新聞「ニューヨーク・タイムズ」によると、崩壊したビルの粉じんを吸い込むなどして健康を害した人は、約6万人に上るという。彼らの救済法案がアメリカ議会で可決されたのは、つい最近のことだ。今後、医療費など43億ドル(約3500億円)が支払われるが、法案の可決に8年を要したことに「遅すぎる」と批判の声が上がった。彼らにとって、テロ事件は決して過去のことではない。

 同時多発テロから10周年を迎える今年、現場の世界貿易センタービル跡地「グラウンドゼロ」には、犠牲者追悼のための公園がオープンする予定だ。崩壊したビルの場所には水が流れる2つの池が造られ、約3000人の犠牲者の名前が刻まれる。テロを「生き抜いた」マメナシの木が「サバイバルツリー」として植え直されるなど、10周年に向けた準備が始まっている。

 しかし、グラウンドゼロ近くにイスラム教のモスクを建設する問題は、火種としてくすぶっている。去年、「信教の自由」か「遺族への配慮」かと世論を二分する大論争になり、アメリカで反イスラム感情が根強いことを浮き彫りにした。モスク建設を主導するイマームは今月から、建設支持を訴える全米ツアーを開始するという。一方、反対派はニューヨーク市当局を相手取り、建設反対訴訟を起こしている。建物内では、すでにイスラム教の礼拝が行われているが、同時多発テロから10周年の今年、再び対立が先鋭化しそうだ。

 そして、今年は、同時多発テロの直後にアメリカが開始したアフガニスタンでの軍事作戦が大きな転機を迎える。オバマ政権は、イラクからアフガニスタンに軸足を移してテロとの戦いを続けているが、今年7月にはアフガニスタンから撤退を開始する方針だ。しかし、戦況は思わしくなく、主要な目的である「国際テロ組織・アルカイダの壊滅」の実現は見えていない。

 アフガニスタンでの戦争は9年を超え、ベトナム戦争を抜いてアメリカ最長の戦争記録になった。01年以降に使われたイラク、アフガニスタン関連の戦費は1兆ドル(約82兆円)を超え、アメリカ軍の死者の数は同時多発テロの犠牲者の約2倍に上ろうとしている。国民の間には、長引く戦争に不満の声が広がっている。

 「オバマの戦争」と呼ばれるアフガニスタンでの軍事行動を、どう終わらせるのか。今年は、テロとの戦いを掲げるオバマ大統領にとっても、成果が問われる大きな節目の年となりそうだ。