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米国で基地“阻止”も 逆転のシナリオとは

2010年12月19日 0:27
米国で基地“阻止”も 逆転のシナリオとは

 アメリカ軍普天間基地(沖縄・宜野湾市)の移設問題に限らず、基地問題は周辺に大きな影響を及ぼす。アメリカにも基地問題は存在しているが、住民の反対運動の結果、アメリカ軍が基地建設候補地を別の場所に移したケースもある。なぜ、このようなことが可能だったのか。「逆転のシナリオ」を外報部・土屋拓記者が取材した。

 アメリカ東部・ノースカロライナ州のある地域に、「NO OLF」と書かれた大きな看板が掲げられている。「OLF」は「遠隔地の訓練場」という意味で、基地とは別の場所にある訓練用の飛行場を指す。この地域は海軍の訓練場を新たに建設する候補地となっているが、沖縄と同じように住民が建設に反対しているのだ。

 現在使われている訓練場では、一分に1回の割合で戦闘機が離着陸を繰り返していた。海軍はさらに、夜間訓練をする新たな場所が必要だとしている。

 一方で、反対運動を続ける市民グループのリンダ・ウォーレンさんは「(海軍は)同じ問題を別の場所に移動しようとしているだけ。問題を解決しようとしていないわ」と話す。

 住民らは、海軍に「環境影響報告書」の提出を求めている。この報告書は、大規模な事業による環境への影響を事前に調査するもの。アメリカでは、この報告書を盾に、訓練場の建設を阻止した街があった。

 同じノースカロライナ州にあるプリマスは03年秋、訓練場の候補地に選ばれた。立ち退きを迫られた住民を束ね、反対運動を起こしたジェニファーさんは「海軍は土地を得るために、住民に一日に5~7回電話していました。皆、おびえていたのです」と話した。海軍と交渉を続ける中、ジェニファーさんは、候補地が野生生物保護区のすぐ近くであることに気づいた。

 その後、環境への影響を調べて国家環境政策法で海軍を提訴、05年9月に訴えが認められた。判決は「海軍は、訓練場を建設した場合の環境面の調査をさらに行うべき」というものだった。08年に海軍はプリマスを断念し、候補地のリストから外した。地元では、新聞の1面を飾る大ニュースだったという。ジェニファーさんは「勝利をみんなで祝ったわ。ここは私たちの子供たちの、私たちの将来のための土地なのよ」と話す。

 絶滅の恐れがあるジュゴンが暮らす沖縄・名護市辺野古の海。ここに新たな基地が造られれば、ジュゴンに悪影響を及ぼすのではないか-こう訴える沖縄の環境保護派は、アメリカ国防総省をアメリカの法廷に提訴した。08年、裁判所はジュゴンへの影響評価を命じる判決を出した。

 「辺野古がベター」として基地移設を進めようとする菅首相。環境破壊を懸念する声が強まる中、地元との溝が埋まる気配はない。