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ベトナムで人気、現地で造る日本の酒とは?

2010年10月27日 16:19
ベトナムで人気、現地で造る日本の酒とは?

 今、ベトナムでは、現地で造られた日本酒や焼酎がおいしいと評判になっている。そのもようを山下雄三記者が取材した。

 ベトナムの首都・ハノイの日本料理店で、日本人客が、焼き肉を楽しみながら、おいしそうに焼酎の水割りを飲んでいる。実は、この焼酎はベトナム産のものだ。飲んでいる日本人に話を聞くと「日本産のものと違いはほとんどない」「日本からきた出張者にすすめても、おいしいと言われます」と、評判は上々のようだ。

 その店の棚には、「いも一(はじめ)」「むぎ一(はじめ)」というベトナム産の焼酎が、日本産の有名ブランドの酒とともに、たくさん置かれている。価格は日本産の約2分の1とリーズナブル。しかも、味に関しても、日本産に引けを取らないと評判で、店でも一、二を争う売れ筋の商品だという。

 ベトナム中部の中心都市で、王朝時代には首都が置かれていた古都・フエ。ここに、日本の企業家によって15年前に設立され、ベトナム産焼酎を製造している、「フエフーズ」がある。焼酎だけでなく、ベトナムで唯一、日本酒の製造も行っているという。

 そのフエフーズ自慢の日本酒を飲ませてもらうことができた。6か月間熟成させたという純米吟醸酒は、すっきりとして飲みやすい。お米の良い香りも印象的だ。フエフーズの工場長・関谷聡さんに特徴を尋ねると、「やっぱり飲みやすさ。これが一番。(ベトナムは)暑い土地なので冷やして飲む人が多い」と教えてくれた。

 関谷さんは、酒所・京都の伏見で20年以上酒造に関わったその腕を買われて、8年前に、フエフーズの工場長に就任した。製造部門で唯一の日本人として、ベトナム人スタッフを指導しながら、“飲みやすさ”にこだわった焼酎や日本酒をつくり続けている。

 “飲みやすさ”へのこだわりはまず「水」からはじまる。関谷さんは「お酒造りには水が第一。軟水系の水で造ると、飲みやすい清酒ができる。フエでも5か所をボーリングして、水質が一番良かった(この場所に)工場を設置している」と語る。そして、その“こだわった水”に合う、地元産の原料を選び抜き、ようやく酒造りがスタートする。その製造工程にもベトナムならではの苦労がある。

 ベトナムは、最高気温40度、湿度90%以上にもなる高温多湿の国。この条件のなかで、おいしい酒を造るには、繊細な温度管理と、発酵の状態を見極める鋭い勘が必要だ。特に、原料を発酵させるために使われる「麹(こうじ)」造りはもっとも神経をつかう仕事だという。

 関谷さんは、「(麹造りの場面で)酒と焼酎の良し悪しのすべてが決まります。日本の麹室にはないけれども、ここにはクーラーと除湿器を用意して、温度と湿度の管理をしています」と、その重要性を説明してくれた。現地のスタッフも「酒造りはその日によって条件が違う。感覚と経験を大事にしなさいと工場長に言われています」と語る。日本の職人の繊細な感覚は、現地のベトナム人スタッフにも受け継がれているようだ。

 こだわりの酒造りと、地道な営業活動で、フエフーズの売り上げはベトナム国内だけで、3億円を超えるまでになったという。関谷さんは、日本の酒をさらに多くの国に広めたいとした上で、「まず、日本にはこういう飲みものがあるよ、と。そして、それを通じて、生活なり文化なり伝えていくのが我々の使命だと思っている」と、酒造りに込めた思いを語ってくれた。

 夜のフエの日本料理店を訪れてみると、そこには、刺し身をつまみに、フエフーズの日本酒を楽しむ地元のベトナム人グループの姿があった。彼らは、「友達と集まるときはよく飲むよ」「日本にいるみたいだよね」と親しげに話してくれた。その和やかな雰囲気の中、彼らに誘われて一緒に飲むことに…。

 ベトナム社会に日本酒や焼酎が少しずつ浸透することで、日本との交流が進む…確かにその可能性があることを実感させてくれる、心地よいお酒の席となった。