×

ロンドンの秋のファッションを彩る車イス

2010年10月13日 15:20
ロンドンの秋のファッションを彩る車イス

 ファッションの情報発信地でもあるロンドン。その街角では、新たなトレンドを作ろうという動きが始まっている。そのようすを、ロンドン支局・大脇三千代記者が取材した。

 有名デザイナーが次々と新作コレクションを発表するロンドンの秋。華やかな雰囲気がおしゃれ心を刺激し、町では、店やブランドが競うように工夫を凝らしたディスプレーで客を誘っている。

 そんな中、あるデパートが今までにない試みを始めた。秋冬物のモデルに、足に障害のある女性を起用したのだ。モデルを務めたのはシャノンさん。しゃんと伸ばした背筋に明るい笑顔は、自信に満ちた印象だ。それこそが、デパート側がシャノンさんを起用した理由。シャノンさんは「障害を見ると同時に、洋服や生き様も見てほしい。秋冬のトレンドのヒョウ柄は、強く見えるわね」と語る。そのメッセージは、広告から十分伝わっている。町で広告を見た人も、「服や表情にひかれて、障害に気付かなかったわ。それだけ自然なのね」「今までにないことだし、完璧な人なんていないって伝えているみたい。世界にはいろいろな人がいるし、すごくいいわね」と、好評だ。

 新たな試みはもうひとつある。マネキンが座っているのは、車イス。ディスプレー用に、マネキンと同じ材質で作られたものだ。アイデアを出したのはソフィーさん。事故が原因で車イスの生活になって7年。町のディスプレーに障害者の姿がないことに気付き、社会の一員として存在していないような疎外感を変えたい、と思い立ったそう。デザインに関しては全くの素人のソフィーさんだが、ミニチュアを作り店に説明してまわる中、全国展開するデパートが賛同してくれた。ソフィーさんは、「車イスは世界共通の“障害者マーク”で、全ての障害を象徴するデザインだから、障害者も大切な存在、大切な客だという店からのメッセージを伝えられると思う」と語る。

 デザインの美しさを気に入って車イスのディスプレーを取り入れた店では、使ってみると、車イスで店を訪れたお客さんにおしゃれの提案がしやすくなったという。オーナーは、「お店に来る障害のあるお客さんの中には、何が似合うか迷っている人もいます。このディスプレーなら、自分が着た姿を想像できるから服が選びやすくなります」と、その効果を実感しているよう。

 こうした動きについて、「モデル」を務めたシャノンさんは、ファッションの世界で起き始めた変化だからこそ意味があると語る。「ファッションは“最前線”のイメージだから、障害者に対する見方を変える刺激になると思うわ。障害があっても、自立して人生を楽しんでいるし、私たちもファッショナブルでいたいのよ」と語ってくれた。

 障害者も、もっとおしゃれを楽しみたい。そのメッセージを送るため、ロンドンでは3年前、人気デザイナーが義足の女性をショーに起用した。義足に直接装飾をほどこした斬新な発想が話題となったが、その強力なメッセージが町に浸透するまでには至っていない。そして今、新たな発想で挑むソフィーさん。障害者の気持ちと店を結ぶ橋渡しをしたいと、営業に力を入れている。「たくさん売って、ひとつでも多くの店や町で飾られるようにすることが次の挑戦です。誰もまだ成し遂げていないし、大きな挑戦だけどがんばるわ」と、今後の活動にも意欲を見せていた。

 出番を待つ「車イスのマネキン」。いつか日本の街角を飾ることになるかもしれない。