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パレスチナに平和を!ヒップホップの叫び

2010年4月15日 16:37
パレスチナに平和を!ヒップホップの叫び

 パレスチナ自治区ガザ地区は、イスラム原理主義組織「ハマス」が支配していることを理由に、イスラエルによって境界が封鎖されていて、経済的に壊滅状態が続いている。08年12月から23日間続いたイスラエルによる軍事作戦で大きく破壊されたガザ地区。多くのガレキが撤去されたが、復興は遅々として進んでいない。

 そんなガザ地区には珍しい黒人ファッションに身を包んだ5人組がいる。その名も「DARG Team(ダラジ・チーム)」というヒップホップグループだ。訳すと、「アラブの革命児軍団」。彼らは、紛争地域であるガザの現実を音楽で世界に伝えようとしている。

 1400人以上のパレスチナ人が死亡した09年1月の紛争終了直後、ダラジ・チームは新曲を発表した。ガレキの中で撮影されたビデオクリップ「23Days」では、死が身近にある現実を歌っている。力強い彼らのサウンドは、紛争後の09年5月に開かれたパレスチナ自治区内のヒップホップコンテストで見事1位を獲得、賞品として、デンマークへのコンサートツアーが用意されていた。主催者がビザを手配し、フライトチケットも手配済みだったが、イスラエルの封鎖でガザから出られなかったという。

 リーダーのファディ・バヒートさんは「封鎖のため、われわれは身動きが取れません。何度も境界に行ったけど、結局出られませんでした」と話した。「イスラエルによる封鎖」とは、「事実上、ガザから出ることさえほとんどできない」ということだ。それでも希望は捨てないというファディさんは「われわれはもう一度このプロジェクトにかかわってガザを脱出し、ガザを代表してスイスなどでツアーをできるように挑戦している」と語った。

 新曲「宗教」のレコーディングが行われたガザ地区で唯一のスタジオは、物が自由に入ってこないため、防音ドアは板張りのままで修復できていない。ファディさんは「宗教」について、「平和や人間同士の調和を訴えている。地球の住人はみんな同じ神・アラーをいただいているのですから、そのメッセージは同じなのです」と、宗教がイスラエルとパレスチナの対立の理由ではないと話している。

 現在、パレスチナ自治区は、ハマスが支配するガザと穏健派・アッバス議長率いる「ファタハ」が支配するヨルダン川西岸で分断状態が続いている。パレスチナ人同士の抗争について、曲の中でダラジ・チームはこう訴えた。「♪何もできない俺たちは、イスラエルが『勝利』を宣言するのを見ているだけさ。ハマス、アッバス議長、政治家さんたちよ!白リン弾まで使われたのに、パレスチナ人同士でさえ団結できていないときてる!もう流血はたくさんだろ?自分たちが仲間割れしている間にも、白リン弾は燃え続けてる。何とかしてくれよ!」

 ダラジ・チームは、子供たちのための活動に力を入れている。ファディさんは、幼稚園などで活動する理由について「子供たちに(イスラエルに対する)新しい非暴力の抵抗を伝えたいのです。音楽を通じて話しかけて、自分たちの声・主張を訴えていく、そうした新しい方法を訴えたいからです」と話している。去年12月、紛争が始まった日に発売された「Rebuilt by us(自分たちでの再建)」の歌詞には、「子供」というフレーズを登場させている。

 ダラジ・チームの活動の拠点はファディさんの自宅。ガザでは娯楽が限られているが、ここではビデオクリップを見たり、シーシャ(水たばこ)を吸ったりしながら、作品作りを行うという。曲作りに行き詰まったときは、ガザの西に広がるビーチに行く。ただ、「開放的な雰囲気のビーチでさえ、自由を感じることはできない」とファディさんは言う。ビーチからは、沖で見張りをしているイスラエルの軍艦がいて、海からガザを封鎖しているからだ。

 本来、彼らはガザを出て、スイスに招待されているはずだった。しかし、封鎖のため、今もガザを出られないままだ。ガザから出て、世界の人たちの前でパフォーマンスができることを信じて、ダラジ・チームは魂の叫びを歌い続ける。